ホフステードの第五の次元は「長期未来志向 vs. 短期未来志向」です。
ホフステードの定義では、長期未来志向とは、未来の報酬にかかわる美徳(忍耐や倹約など)を促進する社会、短期未来志向とは、過去と現在に関する美徳(伝統や面子の維持、社会的な義務を果たすなど)を促進する社会としています。
この次元の興味深いところは、宗教に関連している部分が多い、というところです。東洋の、ヒンズー教、仏教、神道、道教、儒教に感化されている文化は長期未来志向が多く、西洋の、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教に感化されている文化は短期未来志向が多いのです。
これは、東洋の宗教は「生き方や、徳」を説くのに対し、西洋の宗教は「真理を追求する」事が目的になっている為です。
ホフステードは、東洋の宗教(ヒンズー教、仏教、神道、道教)などでは「宗教とは善の探求、自分を高める道を示してくれるもの」として考えている、と言っています。
東洋の宗教では、完全な善も悪もなく、「人々はみな善と悪の部分を持っている」為、誰でも状況によっては悪を働くことはありえる、という考えです。
したがって、もし悪を犯しても、状況により叙情酌量も可能、そして善を学ぶことによって更正も可能、という考えになります。
よって、長期未来志向(東洋宗教)の社会では、人々は悪を犯しても、状況によってそうせざるを得なかったかもしれない、という抒情酌量の考えをし、また、「犯罪者を更正させ生産的な市民にする」という方法が長期でより為になる方法なので、投獄期間も短くし、投獄人数も少なくなります。
そして、宗教とは主に「徳のある生き方」の為、他の宗教に関しても寛容です。
ちなみに長期思考の東洋の方が、善を行うことに関して満足度が高いそうです。
それに対し、西洋の宗教では、完全な善と悪が存在します。
西洋の宗教(キリスト教、ユダヤ教、イスラム教)などは同じ、「絶対の真理というものがあり、その真理とは一つである」という仮定の上に成り立っています。神のみが真理であり、他の者の信じる神は偽者。
世の中には善と悪があり、悪は罰せられなければならない。
よって、犯罪者が出た場合、短期未来志向(西洋宗教)の社会では、「世の中には善人と悪人がいる」という思想に基づき、悪を犯すのは悪人、悪人は善人にはなれないので投獄されるべき、との理論から、再度犯罪を起こさないよう投獄してしまう傾向があります。
よって投獄期間も長く、投獄人数が多くなります
その他の傾向として、長期未来志向の文化は、未来の事を考える為、倹約に対する社会の圧力が強くなるのに対し、短期未来志向の文化は消費に対する社会の圧力が強くなります。
よって、長期未来志向の文化は貯蓄額が大きく、短期未来志向の文化は貯蓄額が少なくなります。
長期未来志向を表すLTO指標では、数値が高いほど長期未来志向が強く、数値が低いほど長期未来志向が弱く(短期未来志向が強く)なります。
日本のLTO指標は88で、世界では3番目に長期未来志向な文化です。
長期未来志向と短期未来志向社会の違いの身近な例としては、
< 家 >
長期未来志向
貯蓄額が多い
親戚と住むのは普通
母親は学校前の子供と時間を過ごすべき
長子は下の子より権力がある
短期未来志向
貯蓄額が少ない
親戚と住むのは普通でない
学校前の子供は他人に面倒を見てもらって良い
出産順位と地位は関係がない
< 学校 >
長期未来志向
生徒は成功は努力の賜物、失敗は努力が足りないせいと思う
応用と具体科学の才能がある
数学と正式な問題が得意
短期未来志向
生徒は成功と失敗はどっちも運のせいにする
理論と抽象科学の才能がある
数学と正式な問題が不得意
< 組織 >
長期未来志向
地位による上下関係
すぐには人を解雇しない(ダメな人でも教育によって伸びる可能性がある)
余暇を尊重しない
忍耐強さを評価する
10年後の利益を重視する
短期未来志向
実力主義
すぐに人を解雇する (ダメな人はダメ)
余暇を尊重する
上昇志向を評価する
今年の利益を重視する
ちなみに、アメリカと日本の長期 vs. 短期未来志向の違いは以下の通りです。
世界において、長期未来志向の強い国:
韓国 (100)
台湾 (93)
日本 (88)
中国 (87)
ウクライナ (86)
ドイツ (83)
ロシア (81)
長期未来志向の弱い国(=短期未来志向の強い国):
オーストラリア (21)
ヨルダン、ベネズエラ (16)
モロッコ、イラン (14)
コロンビア、ドミニカ共和国、ナイジェリア (13)
エジプト (7)
ガーナ (4)
プエルトリコ (0)
他の国との違いもここで見る事ができます。
ホフステード指標
https://www.hofstede-insights.com/country-comparison/
次回は、最後、第六の次元、充足的 vs. 抑制的、です。
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