conflict


私は中学の2年間と大学と大学院を米国で過ごし、社会人としても10年以上米国で過ごしていますが、日本で生まれて思春期の大部分を日本で過ごしたため、私はかなり日本寄り(集団主義:集団の利害が個人の利害よりも優先)の考え方です。

一方、私のハトコは半分日本人で半分カナダ人。生まれたのも育ちもカナダ。ここ8年間は、1年の半分ほど日本でビジネスをしていて日本語もちょっとは話せますが、環境も西洋人が多く、仕事上もほぼ英語で事足りる為、あまり使いません。そういう彼女は西洋寄り(個人主義:個人の利害が集団の利害よりも優先する)の考えです。

ある日、私はそのハトコと私が米国の日系企業に勤め始めた時の話をしていました。

アメリカの日系オフィスでのエピソード

私が勤めたその日系企業のオフィスのメンバーは4人でした。
オフィスの主任が一人(日本人男性、私と同じ年)、事務職が二人(日本人とメキシコ人女性、私よりも年下)、そして営業だった私です。その男性は私の上司ではありませんでしたが、私が新入だという事もあり、私のトレーニングを受け持っていました。その時私と事務職の女性とは既に打ち解けて、ほぼ友人のような、何でも話せる関係になっていました。

ある日、その主任が言った事が腑に落ちず、私が異議を唱えたところ、ちょっとした口論になってしまいました。私は一旦頭を冷やそうと思い、外に出ました。その後しばらくして戻って来たら、主任がいない隙に、「(ただでさえ少ない人数の職場なのに)職場の雰囲気が悪くなるから、ああいう口論はしないでほしい」という事を日本人女性に言われました。隣で聞いていたメキシコ人女性も同じ意見のようでした。それからというもの、私は表立って彼の言う事に反論したり、異議を唱えることをしない事にしました。もちろんそれは、同僚の女性たちの気分を害したくなかった、もしくは「オフィスの雰囲気を悪くしたくなかった」からです。

その話を、彼女にしたところ、「何故自分の意見をはっきり言わないの?(Why don’t you assert yourself?)」とびっくりされました。

私:「だから、私の同僚は友達だし、友達が自分が気分が悪くなるからしないでくれ、と言ったことはしたくないの。」

はとこ:「もしあなたが自分の意見を言うのをサポートしないのなら、その同僚は友達とは言えないんじゃない?(If your co-worker does not support you to assert your opinion, then she is not your friend)」

それを聞いて、私は衝撃を受けました。彼女は私と少しでも同じ遺伝子も持っているのに価値観が全く違う!きっと(個人主義の)彼女に、(集団主義の)私のこういう物の見方は一生分からないのかも、と思ったのです。

個人主義と集団主義の優先順位の違い

集団主義の文化の中で、周りの人の気持ちを思いやる事が大事だと教えられてきた私にとっては、「私が同僚を友達として大切に思うなら、私は友達として彼女の嫌がることをするべきじゃない」、と思いますが、個人主義の文化の中で、自分の意見を主張するのが大事だと教えられてきた私のはとこにとっては、「自分の意見を主張するのをサポートしない彼女は友達ではない」、となるのです。

文化の違いで軋轢が生じるのはここです。

価値観が違う為、自分にとって大事なものの優先順位が違ってくるのです。ここで言う優先順位というのは、何に価値を一番置くか、と言う事です。

この優先順位が違う、というのは職場では往々にして揉め事のタネになります。
それが仕事にしろ、プロジェクトにしろ、会議にしろ、何が一番優先されるか、何が一番大事か、という事の意見が一致しないと決断ができないからです。
この優先順位の違いというのが組織の地位によって、例えば上司と部下で違う場合はまだ解決方法があります。その場合は、例えば個人の利害など関係なく、会社の方針と一番合う物を優先する、などと決めれば良いからです。

問題になるのは、個人の価値観による優先順位が違う場合です。
私の場合のように、自分の意見があり、それが他人と軋轢を起こすと分かっている場合、どのような行動を取る決断をするのがいいのでしょう?
私にとって優先順位とは調和を乱さない事なのか(人間関係重視)、それとも自分の意見を言う事なのか(自己主張重視)?

人との調和を取り、自分の反対意見を(少なくともその場では)言わないと、日本では良しとされるでしょうが、アメリカのように自己主張をすべき、という国では自分の意見が無いと思われるかもしれません。

逆に、調和を乱してまでも自己主張をした場合、アメリカでは自分の意見をはっきり言う、と一目置かれるでしょうが、その場の雰囲気を壊してまで自己主張するようだと日本では「空気の読めない奴」、と敬遠されるかもしれません。

なぜアメリカ人は謝らないのか

もちろんアメリカ人やカナダ人みんながそうだとは言いません。
ですが、特に個人主義の考えの人々にとって、自分の意見>場の雰囲気、という考えはよくあります。そしてそういう集団主義の中で育ってきていない人達には、他人の気持ちをまず思いやる、という私たちのような考えはわからず、ともすると、そうする事(自分の意見を主張しない事)で、相手に見くびられ、いいように扱われてしまう、と思う傾向があるように思います。

アメリカ人は”Sorry”を言わない(謝らない)と言いますが、それは自分が悪いと思っていないからではなく、謝る=自分の非を認める、となると、相手に付け込まれ、特に訴訟の多いアメリカなどではそれを理由に訴訟に負ける事もあり得るからです。つまり、こういう訴訟が多い社会に暮らしていると、人の気持ちよりも自己防衛を優先する必要が出てくるのです。

場を乱す事と自分を主張できない事、どちらがストレス?

個人主義で、自分の意見は強く主張すべきだ、と育ってきた人々にとって、周りの人々の気持ちを優先して、思っている事でも口に出さない、というのはかなり難しいようです。これは、逆に集団主義で育ってきた日本人に、人の気持ちを考えずに(もしくは周りの雰囲気を気にせずに)物を言え、と言われても難しいのと一緒です。

個人主義の人々にとって、思ってても口に出さない集団主義の人々は、「自分の意見も気軽に言えなくて可哀そう」と映るかもしれませんし、「思ってる気持ちを抑え込まなきゃいけなくてストレスなんじゃない?」と思うでしょう。

それに対して、集団主義の我々にとって、何でも口に出してしまう個人主義の人々を見ると、「自分の事ばっかり考えて、人の気持ちがわからないんじゃない?空気も読めないの?」となります。

面白い事に、ある研究では、恋愛関係にある人々が相手の為にと思って否定的な感情を抑え込むと幸福度が下がり、恋愛関係の質も下がる、という結果が出たそうです。つまり、否定的な感情を抑え込むのはストレスになる、よって、体に悪いので否定でもなんでも感情は表に出すべき、と言うわけです。

ですが、その後、これは個人主義のような人々の場合であり、集団主義のような相互依存関係の中で育った人たちは違うのではないか、と研究をし直した人がいました。
そして、確かに、集団主義の人々は、相手の為に否定的な感情を抑え込むという行為によってストレスを感じないばかりか、幸福度が増し、恋愛関係も向上した事が証明されたのです。

その理由は、調和を守るために自分の感情を犠牲にするという選択をした、つまり、
恋愛関係の調和>自分の問題、という優先順位が、個人の利害よりも集団主義の調和をまず優先する、という集団主義の価値観に合ったから、と言う事でした。
つまり、集団主義の人々は、自分の感情を(周りの調和を乱してまで)出す事は、逆にストレスに感じるという事が分かったのです。

価値観の違いによって変わる理想的なリーダー

この違いがアメリカではビジネスに影響を及ぼしています。
以前も書きましたが、アメリカではアジア人のリーダーが少ない事が問題になっています。その一つの理由として、バイアス(偏見、先入観)が働いていることが分かってきました。

アジア人のマネージャーは調和を重視し、強く自己主張をしない為、アメリカの個人主義の文化の中ではリーダーシップがないと思われ、管理職に昇進される人数が他の人種に比べて圧倒的に少ないんだそうです。これはもちろん、上に書いた、個人主義の、個人の意見>集団の調和、という価値観の優先順位の為です。

アメリカにいる日系や中国系の人々は、2世でも3世でも、アジアの集団主義の価値観を持った家族で育っていることが多く、そういう人々は、このように家の外でとの価値観の違いで苦労していたりします。

今でこそ、Submissive Leadership (服従的なリーダーシップ)のような本も出版され、自己主張が強い人が必ずしも良いリーダーではない、という見方も出てきていますが、ホフステードも言っているように、いくらアジアが西洋化していると言っても、考えが西洋と同じになるのは程遠いようです。

個人主義指標の違い

ちなみに今回のエピソードに出てきた4つの国の個人主義指標は以下の通りです。
(値が高いほど個人主義度が高く、値が低いほど集団主義度が高くなります)

Individualism 4 countries

これを見るとメキシコなどは日本よりも集団主義とわかります。
なので、私のオフィスにいたメキシコ人女性の同僚は、オフィス内での口論に、日本人以上にストレスを感じていたかもしれません。

私は今でも、あの時周りの事を考えずに言いたい事を言っておけばよかったのか?と自問自答する事があります。でもやはり、その後、4人しかいないオフィス内の雰囲気が悪くなり、毎日その雰囲気の中で仕事をする事を思うと、調和を優先する集団主義思考の私は、やはりそうしなくてよかったかも、と思うのです。

ちなみに国同士の違いを見たいときは、ここのリンクに国名を入れると見る事ができます。

ホフステード指標
https://www.hofstede-insights.com/country-comparison/

ホフステードの "Culture and Organizations (多文化世界)" を日本で購入したい場合はこちら。

日本語バージョンはこちら。


英語バージョンはこちら。


アメリカで購入したい場合はこちら。






ブログランキングに参加しています。

海外進出ランキング