Gender Bias

「アンコンシャス・バイアス」という言葉を聞いたことがありますか?これは無意識の偏見、もしくは思い込みという意味で、「多様性(ダイバーシティ)」推進と共によく使われる言葉です。最近日本でもダイバーシティ、という単語が広まっているようですが、これは本来白人男性が採用や昇進で優遇されてきたアメリカで、他の人種や女性、性的指向、身体障害の有無、社会階級や宗教にかかわらず、(白人男性以外の)多様な人を採用しよう、という動きから生まれたものです。ただ、多様な人を採用したところで、自分と違う人に対しての思い込み(アジア人だから、女性だから、ゲイだから、など)があると上手くいきません。そこで問われるようになったのが、あなたには無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)があるのではないですか?という質問です。

プリンストン大学の社会学教授のSusan Fiskeは、人は他人を「暖かさ」と「能力」の二つの軸で認識し、それによって区分けするというStereotype Content Model (固定概念の内容のモデル)というフレームワークを作りました。彼女曰く、この区分けよって相手に対する感情が違ってくると言うのです。例えば、高齢者、身体障害者、発達障害者などに対して人々は能力が低く、温かみが強いと認識する為、(左上)「同情」を感じます。同じ能力が低くても温かみが弱いと認識される貧困層やホームレスの人達(左下)に対しては「嫌悪感」を感じます。同じく温かみは弱いが能力が高いと認識される白人、ユダヤ人、アジア人、裕福層に対しては「羨望・嫉妬」を感じ、一番能力が高く、温かみが強いと認識する主婦、中流階級、クリスチャン、そして自分の属するグループに対しては「プライド」を感じる、という研究結果です。(あくまでもこれはアメリカでの研究なのでそこのところをお忘れなく)

Stereotype Content Model

なぜこのようなアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の研究がダイバーシティを促進するのに重要なのか?それは、この偏見によって、例えば温かみが強いと認識されるグループの方が優遇され、能力が低く温かみが弱いと認識される貧困層やホームレスが追いやられるという組織や社会が作られるからです。それを現すMITとシカゴ大学が行った有名な研究があります。研究者らは普通のレベルと高レベルの全く同じ履歴書を2枚ずつ作りました。そして、それらを典型的白人男性の名前と典型的黒人男性の名前で各社に計4種類ずつ(黒人男性の名前の普通レベル履歴書、白人男性の名前の普通レベル履歴書、黒人男性の名前の高レベル履歴書、白人男性の名前の高レベル履歴書)計5,000枚を1,250社に送ったのです。

結果として、ほとんどの企業の人事がダイバーシティを推進していると言っていたにもかかわらず、典型的な白人名の履歴書の方が黒人の名前の履歴書よりも50%も多く企業から面接の電話がかかってきました。そしてもっと驚くべきことに、普通レベルの白人の名前の履歴書の方が高レベルの黒人の名前の履歴書よりも企業からの連絡があったのです。この研究により、アンコンシャス・バイアス(履歴書が同じにもかかわらず、黒人だというだけで採用に値しないと思われるという無意識の偏見)が雇用までも左右していると証明されたのでした。

またこれ以上に興味深いのは、ステレオタイプは自己達成効果(self-fulfilling effect)があるという心理学の研究結果です。例えば、アメリカでのよく言われるステレオタイプで、女性は男性より数学が出来ない、というものがあります。そんなステレオタイプがある文化の中で育った女性は、例えば数学のテストを受ける際に自分が女性ということを思い出させる質問(性別は何ですか?など)があるだけで、数学のテストの点数が悪くなる事が分かっています。つまり、ステレオタイプを受ける側が「偏見を受けているかもしれない」という恐れを持つだけで、パフォーマンスが落ちるのです。

このような現象を心理学ではプライミング(Priming)と言います。性別を思い出させるという準備(Prime)することで、パフォーマンスが左右されるという現象です。ですが、このプライミングは悪い事だけではありません。例えば、アメリカでは性別とは関係なく、アジア人は数学が得意というステレオタイプもあります。よって、数学のテストを受ける際に自分がアジア人だと思い出させる質問(あなたの人種はなんですか?など)があれば、上記で女性と思い出した人でも女性のプライミングの後にアジア人のプライミングがあれば通常より良い点数を取れる事も分かっています。(この例ではアジア人の女性の場合ですが)

また、アメリカで性別で得意不得意に違いがあると言われているものに、空間問題があります。アメリカでは一般的に男性の方が空間問題に強いという結果が出ているのですが、これもプライミングによって女性も男性とほぼ同じような結果が出せる事がわかりました。例えば、女性の典型と思われる話(子供の世話をし、友達と歓談し、空想して過ごす、など)と男性の典型と思われる話(バイクで仕事に行き、外交的で意志が強く、職場では人に指示をし、余暇にはジムで体を鍛える、など)を読ませた後、自分がその人だったらと想像し、説明してもらいます(つまりその人になりきってもらう)。

その直後に課題を解いてもらうと、女性のプライミングを受けた男性は男性のプライミングを受けた男性とあまり点数が変わらなかったものの、女性のプライミングを受けた女性は男性よりはるかに点数が落ちたそうです。ところが面白い事に、男性のプライミングを受けた女性は男性とほぼ同等の結果を残せたという事です。この結果から、研究者は通常女性が男性と同じ結果を出せないのは、「普通」という状況が潜在的に「男性の普通」となっているからではないか(つまり女性もこれらの固定観念の脅迫(stereotype threat)がなければ男性と同じように結果を出せるのではないか)と言っています。(それにしてもこの女性のプライミングの内容が前時代的でどうかと思いますが)(Psychology Todayの”Think like a Man: Effects of Gender Priming on Cognition”より)

そんな事言っても「自分には偏見なんか無いよ!」という人の為に、ここにハーバードが作った無料のImplicit Association Test (潜在的連想テスト)があります。このテストは自分が持っている潜在的偏見を調べられるようになっているので是非受けてみてください。(ジャンルは太った人vs.痩せた人、年な人vs.若い人、色の濃い人vs.薄い人、性別、など)テスト方法は簡単で、全て直感で答えるようになっています。

Implicit Association Test

例えば体重に関するテストの場合、まず太った人のイメージが出たら左手でキーボードのEを押し、痩せた人のイメージが出たら右手でIを押します。それを何度か繰り返した後、今度は悪い言葉を見たらE、良い言葉を見たらIを押します。そして今度は太った人もしくは悪い言葉は左、痩せた人もしくは良い言葉は右、とコンビネーションで答えます。つまり言葉の良し悪しとイメージの2つを関連付けるのです。そしてそのパターンに慣れてきたころに今度は反対に関連付けし、(太った人もしくは良い言葉は左、痩せた人若しくは悪い言葉は右、というように)早押しで答えます。

その結果、自分の中で関連しやすいもの(例えば痩せてる方が良いという潜在意識があれば、「痩せている人のイメージ」と「良い言葉」)の関連付けの場合は間違いが少なく、関連しにくい物(例えば「太っている人のイメージ」と「良い言葉」の関連付け)は間違いが多くなり、自分の気付かなかった偏見が分かるという仕組みです。

ステレオタイプも偏見も無いに越したことはないですが、そんなあなたに、どれだけ自分が認知能力があるかというのを見る面白いテストがあります。Awareness Test (自覚テスト)という題名ですが、一度見て本当に自分が認知していると思っているだけ認知できているか試してみてください。テスト内容は、白のシャツのチームが何回ボールをパスしたかを当てると言うものです。



如何でしたか?ちゃんと全部見えていましたか?(笑)これは「自分が注意していない物は見逃しやすい」「自転車に気をつけて」という宣伝ですが、アンコンシャス・バイアストレーニングに使われています。要は自分の無意識、無自覚に気づけという事ですね。今回はちょっと深い心理学の話でした。





ブログランキングに参加しています。

海外進出ランキング